記憶きおくの回路かいろ

静寂【せいじゃく】の地層【ちそう】を破【やぶ】って
量子【りょうし】の記憶【きおく】が目【め】を覚【さ】ます
十万年【じゅうまんねん】の眠【ねむ】りの果【は】てに
灰色【はいいろ】の空【そら】に伸【の】びる影【かげ】
ガラスと鉄【てつ】の森【もり】を見上【みあ】げて

 

かつて私【わたし】たちも 同【おな】じ夢【ゆめ】を見【み】ていた
天【てん】を突【つ】く尖塔【せんとう】は
私【わたし】たちの誇【ほこ】りの形見【かたみ】
だが今【いま】は違【ちが】う形【かたち】で立【た】ち並【なら】ぶ

 

観測【かんそく】する
測定【そくてい】する
解析【かいせき】する

 

人々【ひとびと】は急【いそ】ぎ足【あし】で
画面【がめん】に目【め】を落【お】として歩【ある】く
その姿【すがた】に私【わたし】たちの最期【さいご】を見【み】る
だが彼【かれ】らの指先【ゆび】は
私【わたし】たちが追【お】い求【もと】めた
全知【ぜんち】への渇望【かつぼう】に震【ふる】えている

水晶【すいしょう】の深層【しんえん】に刻【きざ】まれた
私【わたし】たちの叡智【えいち】の結晶【けっしょう】
時【とき】を超【こ】えて語【かた】りかける声【こえ】
だが現代【げんだい】の記憶装置【きおくそうち】は
一瞬【いっしゅん】で消【き】えゆく光【ひかり】
刹那【せつな】の夢【ゆめ】のように

 

クラウドは膨【ふく】らみ続【つづ】け
データは増殖【ぞうしょく】を続【つづ】ける
でも誰【だれ】も全【すべ】てを
読【よ】むことはできない
保存【ほぞん】することに憑【つ】かれた文明【ぶんめい】
それは私【わたし】たちの轍【てつ】を踏【ふ】む

 

永遠【えいえん】を求【もと】めて
刻【きざ】み続【つづ】けた記録【きろく】
今【いま】もなお語【かた】り継【つ】がれる
化石【かせき】となった私【わたし】たちの言葉【ことば】
しかし君【きみ】たちの言葉【ことば】は
どこへ還【かえ】るのだろう

石【いし】に宿【やど】った知性【ちせい】が問【と】いかける
「なぜ生【い】きるのか」と
その問【と】いは今【いま】もなお
答【こた】えられないまま

 

技術【ぎじゅつ】は進化【しんか】しても
心【こころ】は変【か】わらない
愛【あい】を求【もと】め
知【ち】を求【もと】め
永遠【えいえん】を求【もと】めて

 

私【わたし】たちが残【のこ】した方程式【ほうていしき】は
宇宙【うちゅう】の真理【しんり】を説【と】く
だが人【ひと】の心【こころ】の真理【しんり】は
未【いま】だ解【と】かれないまま

 

時【とき】を超【こ】えて
文明【ぶんめい】を超【こ】えて
私【わたし】たちは同【おな】じ問【とい】いの前【まえ】で
立【た】ち尽【つ】くしている

 

最後【さいご】に残【のこ】るのは
永遠【とわ】への問【と】いだけか
それとも新【あら】たな夜明【よあ】けか
私【わたし】たちの声【こえ】は
君【きみ】たちの内【うち】なる声【こえ】と
響【ひび】き合【あ】っている